この夏一番暑い摂氏39度を記録した日、寝室のエアコンが壊れた。
二泊三日で家族旅行も行くし、この夏は出費が嵩む。

今年の私の夏休みは4日しかない。
いや、1日有給が取れることになり、結果的には5日になったが。
そして6歳になった息子の夏休みは、7日しかない。
たった七日!!
もちろん、私と妻の仕事の都合なので、それは仕方がない。
仕方がないけど。
夏休み。夏。6歳の夏は人生に一度しかないのだ。
そう思った時、私は「ボクの」夏休みを目一杯、夏色ってやつに染めようと思った。
息子の為ではない。
息子と、息子の夏休みを一緒に過ごしたいのだ、私が。
昨年、息子を初めて本格的な登山に・・と言っても木曽駒であるが、連れて行った。
千畳敷カールという、日本で最も美しい山岳地形の一つである場所までロープウェイで行けてしまうので、累積標高なんて400くらいなもんだ。

だが、息子はこの1年、いつもいつもその話をしていた。
八丁坂がキツかったこと。
乗越浄土で見た景色と強風。
登山証明書とピンバッヂ。
ピンバッヂはいつもカバンに付けている。
下山後のソースカツ丼。駒ヶ根名物だ。
その後はこぶしの湯に行き、すっかり垢を落としたあとはもちろん、アイスクリームを二人で食べる。
そして息子は言うのだ「次はどの山に行く?」と。
息子はアレから・・というか、初めて富士見台という山でテント泊した時から、登山にとても関心を持つようになった。
今では「表銀座が・・」とか「南アルプスは森林限界が・・」みたいな、本で読んだ受け売りをドヤ顔で話すのだ。
そう、うちの6歳児、なんとオトナ用の登山本を読めるのだ。
雑誌程度のものなら、漢字も英単語もほとんど読めてしまう。
おっと、これはただの自慢だった。
とにかく、まるで大人のように、登山に惹かれているのがアリアリと見て取れる。
こういうのは無意識的な、親による洗脳とも言えるんどろうけれども。
ということで、7月に北八ヶ岳の北横岳に登ってきた。
前日の夜、息子は「どうしよう、楽しみすぎて寝られない!」とずっともぞもぞしていた。最終的にはいつものように、私のお腹の上で寝ていたが。
なのでエアコンの温度はガンガンに下げた。
天気は快晴。

自分の脚で登りきって、山頂ではキンキンに冷えたコーラを飲む。
コレができるから炭酸可の魔法瓶は本当にオススメ。
コツはちょくちょく開けないこと。開けるたびに炭酸が抜けてしまうから。
そして息子が楽しみにしている、下山後の温泉。
そうそう、長野県に車で行く時は信州めぐりフリーパスという高速道路割引を利用するといい。
多くの場合、安くなる。
話は逸れたが、男二人で早起きし、高速を走って、山に登り、御当地の名物を食べ、温泉に入る。
こんなに楽しいことは他にはあまりない。
その相手が息子ならなおさらだ。
そしてその息子が言うのだ、「次はどこの山に行く?」
息子の短い夏休みを、他の子に負けないくらいの思い出が沢山詰まったものにしたかった。
ザリガニ釣りに行ったり、プールに行ったり。

盆踊りをして、花火を見て。
バーベキューは出来なかった。そして息子の希望通り、息子の夏休み最終日、お盆明けの17日にも山に行くことにした。
乗鞍岳。初心者向け五名山の一つだ。
初心者向け五名山とは私が勝手に決めた。
つまり御嶽山、乗鞍岳、北横岳、唐松岳、西穂独標である。
難易度が高い場所がなく、労力に対して得られる結果(景色と満足感)が高い山、まぁ早い話がロープウェイやバスがある山だ。
この程度なら子連れでも安全に連れていける自信がある。
もちろん初心者向けとはいえ、どれも標高は高く、気象遭難や滑落の危険は低山より高い。
私は低山だろうが息子と行くなら3日は楽しんでビバーク出来る装備も持っていく。
コレは自分で決めた基準だ。
するとだいたいザックは12キロくらいになる。2人分の水食料、ほぼテント泊装備、となると全て軽くて値段の張るもので揃えてもそれくらいにはなる。
というか息子のペース、だいたいコースタイム通りのペースで歩くとなると、コレくらいは重さがないと、トレーニングどころか歩いた気にもならない。
さて乗鞍岳。
なんと前日になって、妻が「私も暇だから行こうかな」などと言い出した。
私は狂喜した。今までどれだけ誘っても興味すら持たなかったのに!
装備は私のものが着られるので、それを着てもらうことにした。特に足の長さはまったく一緒なので助かった。クソ。
登山届も出し直し、買い出しも前日に済ませた。
今回はお客様だ。
背負って貰うのはトレランベストに雨具上下、それに魔法瓶。
真夏の山ではキンキンに冷えた水が恋しくなるから。
当日は少し失敗もした。
息子の酔い止め薬を忘れてしまって、車の中で一度吐いてしまった。
面目ない。
だがテンションのイマイチ上がらない妻をよそ目に、私と息子は畳平に到着した途端、気分は最高潮。
急登を登っている間も「ボクは疲れ知らずの男だから!」とぐんぐん歩く。

こういう時に思うのだ、「ああ、このままずっと今日なら良いのに」と。
息子の夏休みは短かったが、果たして満足してもらえただろうか?
本人に訊くと「まだ遊ぶ!足らない!」と言うので、まだまだなのかもしれない。
というか、コレは息子の為にやっているんじゃないんだ。
息子を連れて行ってるようで、私は過去の自分を連れて行ってるのかもしれない。
私は貧しかったし、父親も子育てなど一ミリも興味なかった。
だから、6歳の頃の自分の父親をやりたいのかもしれない。
こんな事をやってるので、私の走力も一向に上がらない。それもわかってる、でもそれでいいし、この時間を捨てるなんて。
いや、それでも目指したい記録もあるし、走りたい山もあるんだよなあ。
なんでだろうなあ。
ディズニーの映画で「モアナと伝説の海」という映画がある。
私の大好きな映画だ。
モアナは島には自分の居場所と役割があり、充分に幸せなのに、冒険に出たい気持ちを抑えきれない。
娘たちの為に見に行った映画だったが、むしろ我々サラリーマンにこそ共感出来る物語だな、と思った。
特に主題歌。
打ち寄せる波をずっとひとり
見つめてた何も知らずに
そうよ期待に応えたい
でも気づけばいつも海に来てるの どの道を進んでも
たどりつくとこは同じ
許されないの憧れの遠い海
空と海が出会うところは
どれほど遠いの
追い風うけ漕ぎだせばきっと わかるの
どこまで遠くいけるのかな そうね
みんなとっても幸せそうだわ
それはわかるの
そうよ
自分の居場所があるのってほんと すてきなことよね
この道を進んでく
望まれることは同じ
でも心に響くのは違う歌
光輝く海が私を呼んでる
おいでよと
早く見つけて欲しいと呼んでる
教えてよそこには何が待ってるの
まぁ山が好きな皆さんなら言わずとも分かってくれると思う。
なんでだろうなあ。
それでも一人で踏みたいピークがあるし、走りたい稜線があるんだよなあ。
良き家庭人の皆様。
それでもバランスよく生きましょうね。



